以前、杉の羽目板をご購入いただいたお客様から、「裏面が年輪に沿って剥がれるような箇所があるが、これは不良品(アウトレット品)ではないのか」というお問い合わせをいただきました。
結論からお伝えすると、これは天然木、とくに杉に時折見られる自然由来の現象で、施工後に隠れる裏面であれば強度に問題はありません。
とはいえ無垢材を初めて扱う方にとっては、違いは気になるものだと思います。無垢材は一本の木から切り出した自然素材であり、同じ杉や檜でも、育った山や土壌、水分量、風や日光の当たり方によって、性質が少しずつ異なります。その違いが、木目や色味、硬さ、反りやすさ、そして裏面の表情として現れます。
今回の記事では、そうした無垢材の個体差がなぜ生まれるのかや、杉と檜の違い、「アテ」と呼ばれる木の癖、年輪の見方、そして弊社のある大分県日田市で育つ日田杉の個性から、あらためてご説明します。
目次
無垢材の個体差が生まれる理由

無垢材の個体差とは、木目、色味、硬さ、重さ、反りやすさなどが一枚ごとに異なる状態を指します。
まずはなぜそうした違いが生まれるのか、そして樹種によってどう性質が変わるのかからご説明します。
自然の木材の個体差は、木が育った環境の記録です
工業製品のように均一に作られる材料とは違い、無垢材はもともと山で育った一本の木です。木は斜面、風、日光、雨量、土壌といった環境の影響を受けながら、長い時間をかけて成長します。
たとえば斜面に立つ木は、傾いた足場の中でも上へ向かってまっすぐ伸びようとします。風を受ける場所では、倒れないように内部に力を蓄えます。枝が張る方向や日光の当たり方によっても、木の中にかかる力は変わっていきます。
その結果、同じ山で育った木であっても一本一本の性質は同じになりません。無垢材の個体差は、いわば木が生きてきた環境の記録なのです。
杉と檜、それぞれの性質
弊社で扱っている杉と檜にも、はっきりとした違いがあります。
杉は比重が0.32〜0.38程度で、軽くて加工しやすい木材です。乾燥もしやすく、扱いやすい利点があります。その一方で、厚みに関係なく反りが出やすい性質もあります。
檜は比重が約0.45と、杉よりも重く硬い傾向があり、杉に比べると強い癖は見られにくい木です。
ただし、杉にも品種や生育環境による違いがあります。含水率が下がって乾燥していても、手に持った感覚で硬さの違いがわかる場合があり、比重が0.4を超えるような硬い杉もあります。
このように同じ「杉」と一括りにできないところが、無垢材の奥深さです。
反りや割れは、なぜ起こるのか
無垢材で気になる方が多いのが、「反り」や「割れ」です。
これらは木の内部にかかる力と、乾燥という自然な過程から生まれます。
反りの元になる「アテ」という癖
無垢材の反りやねじれに大きく関係するのが、「アテ」と呼ばれる部分です。アテは、木が風や傾斜といった環境に耐えながら、まっすぐ立とうとする過程で生まれる、癖の強い部分です。木の内部に力がかかり、その部分だけ比重が極端に高くなることがあります。
丸太を伐採したあと、小口と呼ばれる断面を見ると、周囲と色味の違う箇所としてアテが見えることがあります。これを「アテ目(あてめ)」と呼びます。
アテのある部分は非常に力が強く、製材の際にはのこぎりを締めつけて止めてしまうほど硬い場合があります。さらに製材後に水分が抜けていく過程で、木材が大きく反ったり、ねじれたりする原因にもなります。
そのため、アテの強い部分は建築材や床材には向かず、弊社でも取り除いています。
反りは、乾燥の過程で現れる
無垢材の反りや割れは、製材した直後にはわからない場合があります。木に水分があるうちは、見た目にはまっすぐに見えることがあるからです。
しかし、乾燥して水分が抜けていくにつれて、内部に蓄えられていた力が表に出てきます。その結果として、曲がり、ねじれ、割れ、ひび割れが現れることがあるのです。
だからこそ建築材や床材として使うには、原木の段階で癖を見極める目が欠かせません。年輪や小口を見て木の癖を判断できるようになるまでには、実際に製材を重ねた経験が必要で、この目を養うには10年近い年月がかかると考えています。
木の癖を見極める、目利きの視点

同じ杉でも、どの木をどこに使うかで仕上がりは変わります。
弊社が手がかりにしているのが、年輪の状態と、木のちょうどよいやわらかさです。
年輪の状態から癖を読み取る
木材を選ぶ際に重要な判断基準の一つが、年輪の状態です。年輪の間隔が均一な木は、癖が少なく、製材したときに反りが出にくい傾向があります。反対に、ある部分だけ年輪が細かかったり、別の部分だけ粗かったりする木は、成長の過程で何らかの環境の変化を受けている可能性があります。
さらに雨量や土壌、日光の当たり方といった条件も、年輪の幅に影響します。一年ごとに刻まれる年輪の一本一本には、その木が過ごした一年の環境が映し出されているのです。
床材に適した、ちょうどよいやわらかさ
内装材や床材として使う場合、硬ければよいとは限りません。弊社では、床材には少しやわらかめの木を好んで使っています。適度にやわらかい木は、鉋がよく通って加工がしやすく、木目の表情も出やすいからです。
年輪が細かすぎる木は、硬く、加工しにくい場合があります。木目が美しく見えることはありますが、その分、癖が強い場合もあります。実際、日光の届かない影で少しずつ育った木は、年輪が極端に細かく、癖も強いため、建築材には向かないことがあります。木にとっての過酷さが、そのまま扱いにくさとして残ってしまうのです。
一方でやわらかすぎる部分は、きれいに削るのがかえって難しくなることもあります。包丁で熟したトマトを切るとき、刃の切れ味が鈍いと崩れやすいのと同じです。硬すぎず、やわらかすぎず——ちょうどよいバランスの木を選ぶことが、仕上がりの質につながります。
産地と環境が生む、日田杉の個性

無垢材の個体差は、品種そのものよりも「どこで、どのように育ったか」に大きく左右されます。その代表的な例が、弊社のある大分県日田市を中心に育つ日田杉です。
日田は、屋久杉(鹿児島)、飫肥杉(宮崎)とともに九州三大美林に数えられ、古くから「木都(もくと)」と呼ばれてきた全国有数の林業地です。市内には複数の原木市場と、樹種や材種ごとに専門化した多くの製材工場が集まり、丸太の目利きから乾燥・加工までが地域の中で受け継がれてきました。
雨量の多い産地が育むやわらかさ
日田杉に個性を与えているのが、豊富な雨量です。雨が多いと杉の成長は早くなり、その分、材はやわらかく仕上がる傾向があります。
そしてこのやわらかさは、床材や内装材として使ううえでは利点になります。鉋がよく通って加工しやすく、年輪の表情が豊かに出やすいためです。またやわらかく色の淡い部分が多いほど、調湿作用やクッション性が感じられます。日田杉が「やわらかでありながら強度にも優れる」と評されるのは、こうした環境の恵みによるものといえます。
同じ杉でも、日田・小国・竹田といった産地ごとに表情は異なります。弊社では、丸太の色味や木目を見れば、どのあたりで育った木かがおおよそ見当がつきます。興味深いのは、この違いが必ずしも品種の差ではないという点です。近い地域から出た木でも、品種はほとんど同じまま、育った環境だけで色味や性質が変わることがあります。無垢材の表情は、種類以上に、その木が過ごした風土に刻まれているのです。
土壌と水分が左右する、色味と耐久性
無垢材の色味には、育った土壌の水分量も深く関わっています。たとえば赤土は水分を保ちにくいため、そこで育った杉には黒みが出にくい傾向があります。反対に、水分を多く含むじめじめとした土壌で育った杉は、赤身の部分が黒っぽくなることがあります。
黒みは、「品質が落ちるのでは」と不安に感じられるかもしれません。しかし弊社では、この黒みをむしろ耐久性の裏づけと考えています。水分の多い環境で育った杉は、自らを守るように過剰なほど水分を吸い込みます。その結果として赤身が黒く変化し、同じ赤身でも黒みの強いものほど耐久性に優れるのです。
無垢材と上手に付き合うために

無垢材の癖は、なくすべき欠点ではなく、理解して活かすものです。反りへの向き合い方と、使う面の考え方を押さえておくと、自然素材を安心して取り入れていただけます。
大切なのは無垢材の癖を完全になくそうとするのではなく、木の性質を理解して適切に見極めて使う姿勢です。
伝統的な木工には、木の反りや癖を無理に矯正するのではなく、あらかじめ読み込んで構造に活かすという考え方もあります。木材同士を組み、木製の栓(釘栓)を使って接合することで、乾燥にともなう収縮を利用して接合部を締めていく技術です。
法隆寺のような建築が長い年月を経て今も残っているのは、木の癖を敵ではなく味方に変える、こうした知恵の積み重ねによるものといえます。
表に出る面と、裏に隠れる面
無垢材は、表に見える面と、施工後に隠れる面とで、求められる仕上がりが異なります。冒頭でご紹介した「裏面が年輪に沿って剥がれる」という現象も、この違いから生まれます。
杉は年輪ごとに硬い部分とやわらかい部分があり、モルダーで高速に削る際、やわらかい部分の表面がわずかに浮いて、薄く剥がれたように見えることがあります。ただしこれは表面的なもので、強度に問題はなく、施工後に割れたり急に悪化したりするものでもありません。
弊社では、羽目板の裏面は施工後に見えなくなることを前提に製作しています。一方、表に出る面はモルダー仕上げや超仕上げ加工を施しているため、このような状態になることは基本的にありません。実際、こうした裏面の状態は、施工後10年、20年が経っても不具合につながらないことを確認しています。
どこに使う材料なのか、どの程度の表情を許容できるのかをあらかじめ確認しておくと安心です。見える面と隠れる面を分けて考えることが、無垢材と上手に付き合う第一歩だと思います。
杉羽目板をお選びの際に気になる点がございましたら、どうぞお気軽に梅江製材所までお問い合わせください。
自然素材ならではの一枚ごとの表情を、その木が歩んできた物語として楽しんでいただけましたら幸いです。





